貫井徳郎最新作。社会の暗部を描く慟哭ミステリー「悪の芽」ネタバレなしで紹介。

社会問題に対して、真っ向から問う。

私、貫井徳郎が本当に大好きなんです。貫井徳郎の魅力といえば、多様な社会問題に対して、真正面から問いを投げかけてくるところだと思っています。純粋にミステリー要素を楽しみながらも、この問いに対して自分ならどう解釈するか、と考えさせられることが多く、その為に作品への没入感が上がっていると感じます。

匿名ネット社会の闇を描写した「私に似た人」、人が宗教に傾倒するさまを生々しく書いた「慟哭」「夜想」(ここでいう宗教とはカルト宗教的な意味合いですのであしからず)、日常に潜む些細な罪を問う「乱反射」、臓器移植の危うさに切り込んだ「転生」など、テーマも多岐にわたります。

テーマは往々にしてかなりヘビーなのですが、文体はソフトで読みやすいのも魅力。余計なところで頭のキャパシティを使わずに済むのでテーマに対して思う存分思考を巡らせられるのも構成の妙だなと感じます。ちなみにその読みやすさから、ミステリーや小説初心者の方にも非常におすすめです。

今回の記事はネタバレなしの紹介ですが、内容にはある程度触れていきますので、ご了承ください。

貫井徳郎の真骨頂。悪の芽。

今回のタイトル、「悪の芽」ですが、私は一目見た瞬間、「ようやくこのタイトルが来たか」とさえ思いました。というのも、貫井徳郎はデビュー以来一貫して、人の中に潜む「悪の芽」について書き続けてきたからです。これまでの作品の中でも「悪の芽」というタイトルでも良かったんじゃないかと思える作品はたくさんありました笑。

そんなわけで今作は、まさに貫井徳郎の得意なスタイルがいかんなく発揮された作品と言えるでしょう。

あらすじ

自分が犯したあの罪が、無差別大量殺人を引き起こしたのだろうか。

日本中のアニメ好きが集まるビッグイベント「アニコン」会場で、凄惨な無差別大量殺人事件が発生。主人公の安達はそのニュースを見て、自分が小学校時代、いじめのきっかけを作った斉木均が犯人であることを知る。連日報道されるニュースでは、斉木は小学校時代に受けたいじめによって、社会からはじき出され、恨みを晴らすために大量殺人事件を起こし、自ら命を絶ったのだという。

無差別大量殺人事件は、俺のせいなのか。本当に社会への恨みで事件を起こしたのか。なぜアニコンでなければならなかったのか。斉木の動機、思想を確かめるために、安達は独自に調査を開始。最後に浮かび上がる、斉木を覆った社会の闇とは。

キーワードは「想像力」

本作でたびたび登場するキーワードが「想像力」。斉木の動機を追いかける主人公の安達は、有名大学を卒業し、就職先の大手都市銀行でも出世コースに乗るエリート。対して斉木は、小学校でいじめを受けて以降、学校へもまともに行けず、犯行当時は無職。そんな斉木の境遇や社会的弱者、下流階級と呼ばれるような人たちに対して、安達が考えを深めていくシーンは、努力して成功を勝ち取った人であればあるほど考えさせられる内容となっており、ぜひみなさんの意見が聞きたいなと思いました。

読者にも、「想像力の欠如」を問う。

本作では、あらゆるタイミングで想像力の欠如についての問題提起がなされています。人間は、自分が見たい範囲でしか物事を見ない、見ようとしない。自分と全く異なる立場の人の考えであったり、自分の行動が誰にどのような影響を与えることになるのか想像してみることの重要性をこれでもかと叩きつけてきます。

テーマがテーマだけに、私も他人事とは思えず、日々の自分の言動を思い返してみたりしました。もはや小説というジャンルを飛び越えて指南書に片足突っ込むくらいの勢い。

これまでもこういった作品は多かった貫井徳郎ですが、本作はより輪をかけて社会への問題提起的な側面が強かったように思います。これぞ貫井徳郎、という作品で、私は大満足でした。

こんな人におすすめ

ミステリーではありますが、いわゆるどんでん返しだとか、派手なトリックが隠されているわけではないので、推理物として読むのは違うかなと。身近な社会問題に対して、自分自身の思考を深めながらじっくり読みたい、という方におすすめな作品でした。

この本もおすすめ♪

私たちの些細な言動が社会の歯車を少しずつずらしてしまう、という点では「乱反射」と似たところがあるなと感じましたし、復讐についての是非は「殺人症候群」、犯人の動機探しに惹かれた方は「微笑む人」なんかを読むと楽しめるんじゃないかなと思いました。

本日はこの辺で。これからももしかめは、貫井徳郎さんを応援し続けます。最後までご覧いただき、ありがとうございました。最近ツイッターを始めてみたので、これからフォロワーさんのおすすめ本から次の読む本を決めようかなと思っています♪

今日の一冊

貫井徳郎 悪の芽の表紙
貫井徳郎「悪の芽」

おすすめ本

貫井徳郎「乱反射」
貫井徳郎「微笑む人」
貫井徳郎「殺人症候群」
もしかめ

もしかめ

ミステリー大好きもしかめが、読んだ本や日常などをだらっと記録していくブログです。

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